晩秋の山旅には「アンプラグドないでたち」で

晩秋の低山を歩くのが、大好きだ。

山の紅葉が終わるころ、トレイルは落ち葉におおわれる。

トレイルに積もった落ち葉を蹴散らすように、音をたてて歩くのだ。

「さらさら」という音は、ひとり歩きの淋しさを紛らわせてくれる。そればかりか、山歩きの気分を高め、心を愉しませてくれるのだ。

秋は、アンプラグドな山旅へ出ることにしている。そんな一日にこだわりたいのは、装備だ。

まずは、晩秋の山旅に似合うウェア。派手な色づかいじゃない。

機能最優先の化学繊維じゃないだろ。

シャツはペンドルトンのバージンウールのシャツ。アンダーは、アイベックスのウーリーズ。ボトムスは、ザ・ノース・フェイスの厚手のコットンパンツ。そして、ブーツはダナーのマウンテンライト。背中に、シライデザインの帆布リュック。ギブソンの古い古いバンジョーウクレレも持っていこう。頭には、アクシーズクインのウールのチロリアンハット。手には、希袋行の大。

仕上げは、バブアーのオイルドジャケットだ。ぼくは、これをほとんど街着として使っている。しかし、このジャケットの生い立ちを思いおこすと、やはり野外でこそ使ってやりたい。

素材はヘビーなコットン生地。

その生地の上に、防水のためにオイルがしみこませてある。

防水性は高く、本降りの雨でもだいじょうぶ。

なによりもうれしいのは、じょうぶさだ。

過去、小枝だらけの藪を歩きまわったりしてもだいじょうぶだったし、斜面で滑り落ちたときもジャケットに傷がついただけだった(身体へのダメージは大きかったが。

そういえば、自転車でひっくり返ったときも、そのタフさを存分に見せてくれた(身体へのダメージは、かなり大きかったが。

◼️不便を愉しむぜいたくな旅

一年にほんの数回だけど、アンプ

ラグドな道具たちがもっているヘビーデューティなポテンシャルを、ちゃんと引き出してやりたいから、僕はこうした装備で出かけていく。

なんたって、このいでたちで出かけてみると、気分が大きく違ってくるのだ。

たとえば、ウッド&キャンバスと呼ばれるオープンデッキのカヌーがある。その名前のとおり、木と帆布で作られたカヌーだ。

昔のカヌーである。いまでもトラディッショナルな工法で、このウッド&キャンバス・カヌーを作っている人がいる。

現在の化学素材のカヌーに比べると、圧倒的に重たいし、強度にも不安がある。メンテナンスに手間がかかる。そして、高価だ。

しかし、ウッド&キャンバス・カヌーは人を (とくに僕のような人間を)川旅へと誘うのだ。このカヌーに乗ると、川に対して挑戦的な気持ちにはまったくならない。川を取り巻く自然が近くなる。自分もまたこの自然界に含まれた人間だ、という思いが強くなるのだ。

こうしたアンプラグドないでたちは、風狂かもしれない。いまの時代には、はやらないかもしれない。

でも、小さな不便が次々と湧いてきて、それをひとつずつこなしていくと、笑顔はどんどん大きくなる。

不便を愉しむ旅こそが、ぜいたくにあふれている。

これこそが、僕が考えるところの「アンプラグドな旅」なのである。

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ひとり用に求められるのは、中で座れる高さ

タープで夜を過ごすのは大好きだが、テントの便利さにはやはりかなわない。テントは、場所を選ばず設営できるし、悪天候にも強い。雨はもちろん、風も防いでくれる。蚊も寄せ付けない。

しかし昔は、テントを張るという作業は「大仕事」と同義語であった。

そんな時代が、あったのだ。

写真やイラストで見たことがあるかもしれないけど、それは三角テントとか家型テントと呼ばれる、旧式のものだ。

重たいコットンの生地でできており、きっちり張るにはごっついペグを20本近くも打たないとだめだ。

4人がかりでも設営には30分以上かかった記憶がある。

もしそのときのキャンプが雨に降られ、強風に吹かれ、というつらいものになったなら、もう二度とキャンプへなんて出かけたくない、と思ってしまうだろう。ずぶ濡れになりながらやっとテントを張り終えたと思ったら、地面を伝って雨水が浸水してくるわ、強風にテントがあおられ、ペグが飛んだ。

◼️苦労してでも野外で眠りたいという人間の欲求

そんなテントに革命が起こったのは、1960年代後半に入ってからだ。

本体に軽いナイロン素材が採用されるようになり、アルミポールを曲げることで、そのテンションから丸い居住空間を利用しはじめたのだ。

1970年代初頭には、ザ・ノース・フェイスがジオデシック形状のドーム型テントを開発。その後、メーカー各社がより軽く、設営の簡単なテントを作りだした。

こうしてテントは、重量と設営時間が10分の1となり、僕たちは気軽にフィールドへ出かけられるようになったのだ。

昔話をしたかったわけじゃない。

重たく不便なテントを見るたび、それほどまでの苦労をしてでも、旅へ出て野外で眠りたいという欲求を、人間はもっているんだ、ということを改めて感じているのだ。

テントという名のソフトハウスは、家として考えると不便かもしれないけど、人の心を騒がせる道具なのだ。

ひとたび、テントを持って出かけたと思ったら、もう行くしかない。

それはだれにも止めることができない種類の衝動なのだ。心の中で竜巻が走り回ってしまうのだ。

美しくないテントは自然への冒涜だ。

ひとり旅へ出かけるためのテントを選ぶとき、重要視することはなんだろう。

できあがりのサイズ、居住性、重量、収納サイズ、設営がかんたん、雨に強い、風に強い、涼しい、暖かい、それに価格。

それぞれの使い方にもよるので、こればかりはなんともいえない。

好みのブランドがあるかもしれないし、ネーミングで選ぶという選択肢もある。

いまでは、重量が1キロ以下のテントが登場してきた。しかも、本格的な作りである。

装備は軽いに越したことはない。

が、ここまでテントが軽くなるとは思ってもいなかった。選択肢が増えるのはうれしいことだ。

ひとり用テントに僕が望むことは、テントの中で座れる高さが欲しい、ということ。そして、風雨に強い。自立式。このあたりが優先順位となる。

そのあと、体重を気にするかな。

そして、ぜったい的に重要視するのは、色と形だ(これはもちろん、あくまでも僕の好みだけど)。

僕は、美しくないテントを自然の中に張りたくない。きらいな色のソフトハウスの中で眠りたくないのだ。

美しくないテントを使用するのは自然への冒涜だ、とまで思っている。

色濃い自然の中に入れば入るほど、その思いは強くなる。景色を汚すようなテントは見たくないし、人にも見せたくはない。

あくまでも好みの問題だから、こればかりはどうしようもないんだけどね。

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ヘネシーハンモックがテントの時代を終わらせた

地に足のつかない浮ついた日々を過ごしている男は(いや、女も)、寝るときも浮いていたいのである。

そこで、ハンモックの登場となる。

ハンモックというと、日本では、昼寝とか、癒しの道具と見なされがちだが、これはりっぱな寝具である。

ブラジルのアマゾン川流域の一般家庭では、ベッドよりも普及している。ベッドはなく、ハンモックが品ってあるホテルもあるほどだ。

数年前のブラジル旅で、僕は知ったのだ。ハンモックは癒しの道具ではなく、生活の道具だということを。

町なかには、ハンモック屋が当たり前のように並んでいる。日本の街角にふとんの店があるように。

そんな店のひとつで僕はハンモックを買い、それを抱えてアマゾン川を漂う舩に乗り込んだのだった。

アマゾン川を下る船は、ハンモック持ち込みが条件だった。床に寝るのではなく、船のなかにマイ・ハンモックを品って、マナウスから河口の町ベレンまでの3泊4日を過ごすのである。川風に吹かれながら。

こうして毎日ハンモックに揺られていると、これほどまでに平和な道具が世の中にあるのだろうか、と思ってしまう。まさに、地に足のつかない日々である。僕は、完全に浮き足だってしまったのである。

「これこそが、革命だ!」と確信するほどに。この4日間が僕の心を決定的にしてしまった。

そして、高温多湿の日本の夏にも、ハンモックがよく似合う、と気がついた。

それ以来、夏の間は自分の部屋にしまったハンモック(もちろんそのときブラジルで買ったやつだ)で、僕は寝ている。

蚊帳とタープがついたテントがわりのハンモックのとき同じくして、ヘネシーハンモックなる商品を見つけた。モスキートネットとタープがついた、キャンプ用のハンモックである。

ヘネシーハンモックは、キャンプといえばテントがあたりまえ、という時代に終わりを告げたのだ。

大地に最も近いところで眠る、というアウトドア生活の概念を覆してしまった。

おかげで、ハンモックが旅の道具となった。

なんたって、この軽量さはありがたい。タープを含む総重量が、1kg前後。テントがわりとしては、驚く軽さだ。

しかも、コンパクトである。マットも必要がないから、テントとマット分が、おおよそ20×25センチのスタッフバッグに収まってしまう。

特筆すべきは、モスキートネットが縫いつけられたハンモックにどうやって人間が潜り込むかとい

大問題を、びっくりのアイデアでクリアしていることだ。なんと、ハンモック底部につけられたス

リットから、人がなかへ入るのである。そして、そのスリットはテンションがかかると閉じる。さらに

ベルクロテープがついているので、寝相が少々悪くても、足が出てしまうこともない。

モンパの木がある浜が最高のキャンプ地。

このヘネシーハンモックを手に入れてすぐ、僕はシーカヤックによる島から島へのピング)へと!

裏のロング・トリップだった。

早朝からの長時間にわたるパドリングの毎日。藤署の日々。ちょっと

ばかりしんどい時間がすぎていく旅だ。

だからこそ、このハンモックのおかげで快適な夜を過ごせる、ということがうれしかった。暑さのた

め、何度何度も寝返りを打つ、という夜を過ごさなくていい。

さらには、小さな風が吹くと、ハンモックは地球上のさまざまな「ぶれ」とはまったく違った揺れをす

る。

このあらぬ方向へのぶれは、不思議なほど心を安らかにしてくれる。

このハンモックを使いはじめて大きくかわったのは、キャンプ地を探す目である。

キャンプによさそうな浜を地図上で見つけたなら、そこにモンパの木があることを祈る。いままで

も、モンパの木陰があるビーチが最高のキャンプ地であることを知ってはいたが、いまではハン

モックを用いるという命題ができたのだ。

ソロピラミッドTC キャンペーン

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